「古事記」(角川書店編)

ここからさらに、私も学びなおしたい

「古事記」(角川書店編)
 角川ソフィア文庫

「宇宙の中心の浮遊がおさまり、
 凝固してきたものの、
 まだ生命の兆しや物体の形が
 はっきりとは見えません。
 何と名づけたらよいのか、
 どんな活動をしているのか、
 だれにもわかりませんでした。」

これだけ読むと、
なにか宇宙物理学か、
怪しげな宗教書を読んでいるような
錯覚を覚えるはずです。
何を隠そう、
日本最古の書物、
古事記の序文なのです。

しかし、これはかなり意訳した文章。
もともとの文は
どのようになっているかというと…。
「夫れ混元既に凝りしかども、
 気象未だ敦くあらず、
 名も無く為も無く、
 誰か其の形を知らむ。」

どこをどう訳したら、
この難解な文章が
冒頭の訳文になるのか?
この書が書かれたとされる
712年の日本の学者に、
宇宙や地球創世の概念が
存在していたのか?
古典を読むのは難しいのですが、
さすが最古の歴史書、
理解の困難さも最上級です。

そもそも、この文章でさえも、
「書き下し文」と呼ばれるもので、
原文は全文漢字のみなのです。
仕方ありません。
当時まだ仮名文字は
存在していなかったのですから。
編纂した太安万侶も、
漢字のみでどのように
正確な日本語を書き表すかという点に
苦心したことが記されています。

私たちは悲しいことに、
私たちのはるか祖先の書き残した
「古典」について、
個人が直接その原文に接し、
そこに込められている
物語や歴史的事実、
先人の思いについて理解することは
ほぼ不可能の状態に
なってしまいました。
だからこそ、この角川ソフィア文庫版
ビギナーズ・クラシックスは
存在意義があるのです。

「訳文」「書き下し文」「寸評(解説)」
そして「コラム」と、
古事記の背景を知るには
これで十分です。
全文掲載されていないことに
目くじらを立てることはありません。
まずはそのエッセンスを知ることが
大切だと思います。

読み進めると、
アマテラス、スサノオ、
ヤマトタケル等々、
聞き知った名前が次々に登場します。
難しいことはさておき、
これはこれで十分楽しめるのです。
まずは興味を持つこと、
それが古典理解の第一歩です。

本シリーズは巻末資料として、
さらに深く勉強するための
参考図書・資料等が
懇切丁寧に提示されています。
そうです、本書で完結ではなく、
本書は学びの出発点なのです。
ここからさらに、
私も学びなおしたいと思います。

(2020.2.1)

kawa*muさんによる写真ACからの写真

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